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diseaseアキレス腱周囲炎
症状
アキレス腱周囲炎は、ふくらはぎの筋肉と踵(かかと)の骨をつなぐ、体の中で最も太く強靭な腱であるアキレス腱の周囲を覆う薄い膜(パラテノン)に炎症が起きることで発症する疾患です。初期には軽度の違和感や不快感から始まりますが、適切な対応をせずに放置すると、慢性的な痛みに進行し、日常生活にも支障をきたすことがあります。
この疾患には、以下のような特徴的な症状が現れます。
- アキレス腱の痛みと腫れ: 踵のやや上方、アキレス腱の付着部からおよそ2〜6cmほどの範囲に痛みや熱っぽさを感じ、その部分を押すと強い痛み(圧痛)が走ることがあります。時には患部が腫れて、こわばりを感じることもあります。
- 動作時の痛み: 歩行やランニング、ジャンプ、階段の昇降など、足首を動かす際に痛みが現れます。特に、運動後や朝起きて歩き始めるとき、最初の数歩で強い痛みを感じる「始動時痛」が起こるのが特徴です。しばらく動いていると痛みが軽減することがありますが、これは症状が治癒したわけではありません。
- ギシギシとしたきしむ音や感覚: 腱を動かした際に、アキレス腱の周辺でギシギシとこすれるような音や、摩擦するような感触を自覚する場合があります。これは、炎症によってアキレス腱と周囲の膜の滑りが悪くなっているサインです。
こうした症状を我慢して運動を続けると、炎症が進行し、アキレス腱自体の組織が変性して瘢痕化(きずあと)し、元に戻りにくくなる恐れがあります。わずかな違和感であっても、放置せずに早めに専門医へ相談することが、症状の悪化を防ぐ上で非常に重要です。
原因
アキレス腱周囲炎は、アキレス腱への過度な負担が繰り返されることで発症する、代表的な「オーバーユース症候群」の一つです。多くの場合、一つの要因だけでなく、複数の要因が複合的に絡み合って生じることが多いとされています。
主な原因として、以下のものが挙げられます。
- 過剰な運動負荷(オーバーユース): ランニングでのダッシュ、ジャンプの着地、急停止など、アキレス腱に強い伸縮や衝撃が繰り返し加わるスポーツの場面でよく発生します。急激に運動量や強度を上げることや、かかとから強く着地する「ヒールストライク」のような不適切なランニングフォームも、アキレス腱に過度な負担をかける大きな原因となります。
- 不適切な靴の使用: 踵が固定されず不安定なサンダルや、靴底が極端に硬い・柔らかい靴は、アキレス腱に不自然な負荷をかけやすくなります。また、靴底が片側にすり減っている場合、体のバランスが崩れ、アキレス腱に不均一な負担がかかっているサインである可能性があり、これも発症の引き金となります。
- 身体的要因: 足の裏の土踏まずが潰れて平らになった偏平足(へんぺいそく)のように、足の構造的な問題がある場合、アキレス腱への負荷が増大しやすくなります。また、加齢に伴うアキレス腱自体の柔軟性や筋力の低下も、負荷に耐える力が弱まるため、発症の要因となります。
これらの要因がアキレス腱に微細な損傷を繰り返し引き起こし、疲労の蓄積と回復のバランスが崩れることで、最終的に周囲の組織に炎症が発生してしまいます。
診断
アキレス腱周囲炎の診断は、患者様の自覚症状を詳しくお伺いし、身体の状態を直接確認する診察と、正確な画像検査を組み合わせて行います。これにより、症状の原因を多角的に特定することが可能となります。
当院では、主に以下の方法を組み合わせて診断を進めます。
- 問診: いつから、どのような動作で痛みが生じるか、どのようなスポーツや活動をしているかなど、症状の経過や原因となりうる生活習慣について詳細にお伺いします。これにより、痛みの原因がどこにあるのかを探る手がかりを得ます。
- 身体診察: 医師が直接アキレス腱の腫れや、押した時の痛み(圧痛)の場所を丁寧に確認します。さらに、足首を動かし、痛みが誘発される動きや角度を特定する徒手的なテストも行います。
- 画像検査: 骨に異常がないか確認するためにレントゲン撮影を行います。特に当院では、超音波(エコー)検査を重視しています。この検査では、アキレス腱自体の肥厚や炎症、微細な損傷の有無、また腱と周囲の組織の滑走状態をリアルタイムで詳細に観察することができます。
エコー検査は、アキレス腱を動かしながら内部の状態をその場で確認できるため、痛みの根本原因をより正確に診断する上で非常に有用な検査です。また、患者様ご自身にも画面を見ながら患部の状態を分かりやすくご説明することで、症状への理解を深めていただけます。
治療
アキレス腱周囲炎の治療は、まず保存療法が中心となります。当院では、患者様一人ひとりの症状の程度、原因、そしてライフスタイルに合わせて、複数のアプローチを組み合わせた最適な治療プランをご提案し、痛みの軽減と根本的な治癒を目指します。
治療は主に以下の方法を組み合わせて行われます。
保存療法
- 安静と活動制限: 痛みが強い場合は、原因となった運動を一時的に休止し、アキレス腱への負荷を軽減することが最も重要です。
- 薬物療法: 痛みや炎症が強い時期には、内服薬や外用薬(湿布など)を用いて症状を抑えます。
- リハビリテーション: 痛みが落ち着いてきたら、ふくらはぎの筋肉やアキレス腱の柔軟性を高めるストレッチや、周囲の筋力を強化するトレーニングを行います。また、正しい靴の選び方や、靴底を調整するインソール(中敷き)の使用も、アキレス腱にかかる負担を減らし、再発予防に有効です。
再生医療(PRP療法)
PRP(多血小板血漿)療法は、患者様ご自身の血液を採取し、血小板を濃縮して患部に注入する治療法です。血小板に含まれる「成長因子」が傷ついた組織の修復を促し、炎症を抑えることで、自然治癒力を高めます。この治療は、特に慢性的な症状や早期の競技復帰を目指す場合に効果が期待されます。当院では、エコーを用いて患部に正確に注入し、リハビリと組み合わせることで、より高い治療効果を目指します。
アキレス腱周囲炎の治療法比較
| 治療法 | 目的 | 主な内容 | 特徴 |
| 安静・薬物療法 | 炎症と痛みの軽減 | 運動を休止し、湿布や内服薬で症状を抑える | 痛みが強い急性期の基本的な治療。 |
| リハビリテーション | 根本原因の改善・再発予防 | ストレッチや筋力トレーニング、正しい靴選びなど | 治療効果の維持と再発予防に不可欠。 |
| PRP療法 | 組織の再生促進 | 自身の血液から抽出した成長因子を患部に注入 | 難治性の症状や早期復帰を目指す場合に有効。 |