肩の痛み・肩関節治療
shoulder肩が抜ける感じがする
この症状、ありませんか?
この症状は、単なる違和感ではなく、肩の不安定さを示す重要なサインです。医学的には「肩関節不安定症」と呼ばれます。以下のような感覚や状態に心当たりはありませんか。
- 肩がグラグラする、抜けそうな感覚がある
- 肩に力が入りにくい、動かせない
- 脱臼を繰り返している、または脱臼癖がある
- 肩を動かすと嫌な音がする
なぜこの症状が?考えられる主な原因
肩が抜けるような感覚は、肩関節の安定性が失われた「肩関節不安定症」が主な原因です。肩関節は広い可動域を持つため、複数の靭帯や筋肉、関節唇といった組織が肩を安定させる役割を担っています。これらの組織に異常が生じると、不安定性が引き起こされます。
- 外傷性不安定症(外傷によるもの)
- スポーツや転倒などで強い外力が加わることが最も一般的な原因です。初めての脱臼では、関節包や関節唇、靭帯などが損傷し、激痛を伴います。
- 一度損傷した組織は元に戻りにくいため、肩が外れやすい「脱臼癖」の状態に陥ることがあります。若年層での最初の脱臼は再脱臼のリスクが高く、繰り返すほど不安定性が増していきます。
- 非外傷性不安定症(体質や繰り返しの負荷によるもの)
- 生来の関節の緩み: 明らかな外傷歴がないにもかかわらず、生まれつき関節が緩い体質の方に見られることがあります。これは国際的に「多方向性不安定症(MDI)」とも呼ばれ、両肩に症状が出ることが一般的です。
- 繰り返しの動作による負荷: 野球やテニスなど、腕を頭上に挙げるオーバーヘッド動作を繰り返すことで、肩の関節包が徐々に緩み、痛みや抜けそうな感覚を引き起こすことがあります。
これらの症状は、ご自身で判断せず、専門医の診察を受けることが大切です。自己判断は、正確な診断や適切な治療の機会を逃す可能性があります。
診断について
当院では、患者様のお悩みを正確に把握し、適切な診断を行うため、以下のプロセスで丁寧に診察を進めます。長年の経験と専門的な徒手検査により、多くの肩関節疾患を正確に診断することが可能です。患者様の主観的な訴えや肩の動的な状態を評価することが極めて重要となります。
詳細な問診(聞き取り)と視診・触診
まず、症状がいつから出たか、どのような動作で症状が出るか、過去の怪我やスポーツ歴などを詳しくお伺いします。次に、肩の変形や左右差、筋肉の萎縮、腫れなどを観察します。最後に、痛みの箇所や周囲の筋肉の緊張を細かく確認し、関節の動きや音も評価します。
専門的な徒手検査
問診と身体所見から得られた情報に基づき、複数の専門的な徒手検査を行います。これらの検査は、肩関節の動的な不安定性や、どの組織に問題があるかを特定するために不可欠です。
| 検査名 | 目的 | 陽性時の所見 |
| 不安テスト(Apprehension Test) | 前方不安定性の評価 | 肩を外転・外旋させた際、脱臼に対する不安感や恐怖感が生じる。 |
| サルカスサイン(Sulcus Sign) | 下方不安定性の評価 | 腕を下に引っ張った際、肩峰の下にくぼみができる。 |
| ジョーブテスト(Jobe Test) | 腱板(棘上筋)の損傷評価 | 親指を下に向けた状態で腕を上げた際、抵抗をかけると痛みや筋力低下がある。 |
| スピードテスト(Speed’s Test) | 関節唇・上腕二頭筋腱の損傷評価 | 肘を伸ばし、手のひらを上にした状態で腕を前に上げた際、抵抗をかけると痛みが生じる。 |
| クランクテスト(Crank Test) | 関節唇の損傷評価 | 肩を挙げ、肘を曲げた状態で肩を回した際、痛みやクリック音がある。 |
| ドロップアームテスト(Drop Arm Test) | 腱板(棘上筋)の損傷評価 | 腕を90°上げた状態からゆっくりと下ろせない。 |
| リフトオフテスト(Lift-off Test) | 肩甲下筋の損傷評価 | 腕を背中に回し、背中から離す動作ができない。 |
これらの診察と検査を通して、脱臼の原因や不安定性の程度を正確に診断し、最適な治療法をご提案します。
治療について
診断に基づき、症状や原因、活動レベルに合わせて最適な治療法をご提案します。治療の目的は、肩の安定性を高め、日常生活やスポーツに支障がない状態を目指すことです。
- 保存療法(手術をしない治療)
- 軽度の症状や初めての脱臼の場合、まずは保存療法から開始します。
- 安静と固定: 脱臼直後や痛みが強い時期は、三角巾などで肩を固定し、安静を保ちます。
- 薬物療法: 痛みを和らげるために、鎮痛薬や湿布などを使用します。
- リハビリテーション: 保存療法の中心となるのがリハビリです。肩の可動域を回復させるストレッチに加え、肩を安定させるための筋肉を強化するトレーニングを行います。
- 手術療法
- 保存療法で改善しない場合や、脱臼を繰り返す場合、スポーツ選手で早期の競技復帰を希望する場合などには、手術が検討されます。
- 手術の目的: 損傷した関節唇や関節包などを修復し、肩の安定性を根本的に回復させることを目指します。関節鏡を用いる手術が主流となっており、従来の術式よりも痛みが少なく、入院期間も短縮される傾向にあります。
- 当院との連携: 当院では手術を行っておりませんが、手術が必要と判断した場合には、信頼できる提携医療機関をご紹介いたします。
当院では、患者様一人ひとりの病状とライフスタイルを考慮し、最も適切な治療法をご提案します。
症状を和らげるために(医師に相談の上で)
以下の情報は一般的なものであり、自己判断での対処は危険です。特に、自分で脱臼をはめようとする行為は、周囲の神経や血管をさらに傷つける可能性があるため絶対に避けてください。
- 無理に動かさない: 症状があるときに無理に腕を回したり、重いものを持ったりする動作は避けましょう 。三角巾などで腕を固定すると、追加の損傷や痛みの悪化を防ぐことができます。
- 適切な対処法を知る: 脱臼直後や痛みが強いときは、患部を冷やして腫れや炎症を抑えます。痛みが落ち着いてきたら、温めることで血行を促進し、リハビリの効果を高めます。
- 睡眠時の工夫: 夜間の痛みで眠れない場合、痛い方の肩を下にして寝ることを避け 、抱き枕やクッションを抱えるなどして、肩に負担がかからないように工夫しましょう。
- 姿勢の改善と予防: 日頃から猫背や巻き肩に注意し、正しい姿勢を心がけ、肩甲骨周りの筋肉を鍛えることで、再発予防につながります。
一緒に見られることのある関連症状
肩の不安定性を補おうとする周囲の筋肉に過剰な負担をかけるため、以下のような症状と同時に見られることがあります。
- 痛み
- 腕や手のしびれ、感覚の異常
- 肩のこわばり、重さ
- 関節の引っかかりや音
- 首や背中の痛み
これらの症状が複合的に見られる場合は、様々な疾患の可能性が考えられます。
その不安感、放置しないでください
肩の「抜けそうな感覚」は、単なる気のせいではありません。それは、肩関節の安定性が損なわれていることを示す、体からの重要な警告です。
放置すると、わずかな力でも肩が外れてしまう「脱臼癖」に進行し、日常生活に大きな支障をきたす可能性もあります。しかし、早期に適切な診断と治療を開始すれば、その不安から解放され、快適な生活や活動を取り戻すことができます。
「たかが違和感」と思わず、まずは一度、専門医にご相談ください。