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disease石灰沈着性腱板炎
症状
石灰沈着性腱板炎は、ある日突然、何の前触れもなく肩に激痛が走ることで発症するのが特徴です。その痛みは「骨折かと思うほど」「夜も眠れないほどの激しさ」と表現されることが多く、腕を少しでも動かすことが困難になります。この非常に強い痛みが現れる時期を「急性期」と呼びます。 症状としては、
- 突発的で、耐えがたいほどの肩の痛み
- 痛みで腕を全く動かせない(運動制限)
- 肩が熱っぽく、腫れている感じがする(熱感・腫脹)
- 夜間に痛みが特に強くなる(夜間痛) などが挙げられます。この急性期の激痛は数日から1週間程度続くことが多いですが、その後、徐々に痛みが和らいでいきます。 一方で、急性期のような激しい症状はなく、肩を動かしたときに痛みや引っかかりを感じる程度の「慢性期」の症状が続く場合もあります。四十肩・五十肩やインピンジメント症候群と症状が似ているため、正確な診断が重要です。
原因
石灰沈着性腱板炎の原因は、肩のインナーマッスルである腱板の内部に、リン酸カルシウムの結晶(石灰)が沈着することです。なぜ石灰が沈着するのか、その明確なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、加齢による腱の変性や、血流の低下などが関係していると考えられています。 沈着した石灰は、最初は練り歯磨きやミルクのようなドロドロとした状態です。この石灰が何らかのきっかけで腱の組織から、腱を包む滑液包という袋の中に漏れ出すと、体がそれを異物と認識して急激な炎症反応を起こします。この強い炎症が、突然の激痛を引き起こす原因です。 その後、時間が経つにつれて石灰は体内のマクロファージ(貪食細胞)によって吸収・除去されていき、炎症も治まっていきます。
診断
突然の激しい肩の痛みで受診された場合、まず石灰沈着性腱板炎を疑います。問診で症状の発生状況などを詳しくお伺いした後、画像検査を行います。 本疾患の診断において、レントゲン検査は非常に有用です。レントゲンを撮影すると、腱板の部分に白く塊状に写る石灰沈着を明瞭に確認することができます。これにより、多くの場合、診断が確定します。 さらに当院では、エコー(超音波)検査を併用することで、より詳細な情報を得ています 。エコー検査では、レントゲンで確認した石灰の正確な位置、大きさ、そして性状(硬い石膏状か、柔らかいミルク状か)まで評価することが可能です。また、石灰の周囲でどの程度の炎症(滑液包炎など)が起きているかをリアルタイムで観察できるため、現在の痛みの強さと病態を結びつけて理解することができます。この情報は、後述する治療方針を決定する上で非常に重要となります。
治療
石灰沈着性腱板炎の治療は、症状の強さ(急性期か慢性期か)に応じて行われます。
急性期(激痛期)の治療
この時期の治療目標は、とにかく強い痛みと炎症を速やかに抑えることです。
- 安静: 三角巾などで腕を吊り、肩を安静に保ちます。
- 薬物療法: 強力な消炎鎮痛剤の内服や坐薬を使用します。
- 注射療法: 最も効果的な治療法の一つです。当院では、エコーガイド下で石灰沈着の部位と炎症が最も強い滑液包を正確に確認しながら、局所麻酔薬とステロイドの混合液を注射します。これにより、劇的に痛みが和らぐことが多く、患者様の苦痛を大きく軽減できます。 さらに、エコーで石灰がミルク状で柔らかいことが確認できた場合には、エコーガイド下での石灰洗浄・吸引という手技を行うことがあります。これは、エコーで石灰の位置を確認しながら注射針を刺し、生理食塩水を注入して石灰を洗い流し、吸引・除去する治療法です。痛みの原因物質である石灰そのものを取り除くため、根本的な症状改善が期待できる非常に有効な低侵襲治療です。この手技は、エコーを駆使した当院の専門的な治療の一つです。
慢性期の治療
急性期の激痛が治まった後や、慢性的な痛みが続く場合には、リハビリテーションが中心となります。石灰沈着によって硬くなった周囲の組織の柔軟性を取り戻し、肩の動きを改善するためのストレッチや運動療法を行います。痛みが残存する場合には、注射療法を適宜行います。痛みが長引き、他の治療で改善しにくい慢性的な肩の痛みに対しては、体外衝撃波治療も有効な選択肢となることがあります。これは、体の外から患部に特殊な音波(衝撃波)を照射する治療法です。石灰を粉砕するだけでなく、痛みの神経を一時的に麻痺させたり、組織の修復を促す効果も期待できます。メスを使わない低侵襲な治療であり、繰り返しの治療で高い除痛効果と組織再生効果が報告されています。
ほとんどのケースはこれらの保存療法で改善しますが、痛みが長期間改善しない場合や、石灰が大きく硬く、何度も症状を繰り返す場合には、関節鏡を用いて石灰を除去する手術が検討されることもあります。