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disease肘内側側副靭帯損傷(MCL)
症状
肘内側側副靭帯損傷は、特に投球動作を繰り返すスポーツ選手に多く見られる疾患です。初期には軽微な痛みや違和感として現れることが多いですが、放置すると選手生命に関わる深刻な問題に発展する可能性があります。
- 肘の内側に感じる痛み: 最も一般的な症状は、投球時や投球後に肘の内側に生じる痛みです。指で肘の内側を押したり、肘を反らせたりするだけでも痛みを感じることがあります。慢性的なオーバーユースが原因の場合、最初は投球後数時間で治まるような鈍痛や重だるさとして現れますが、練習を続けると痛みがなかなか治まらなくなります。一方、急性外傷による損傷では、「ブチッ」という音が聞こえるとともに、突然の激しい痛みが走ることがあります。
- 関節の不安定感と可動域の制限: 損傷が進行すると、肘関節の安定性が損なわれ、「肘が緩い」「外れそうな感じがする」といった不安定感を感じるようになります。不安定感からくる不安や痛みにより、肘の曲げ伸ばしが難しくなり、可動域が制限されることもあります。
- 神経症状: 肘内側側副靭帯の近くには、小指と薬指の感覚を司る尺骨神経が走行しています。長期間にわたる炎症などによってこの神経が圧迫されると、小指や薬指のしびれ、握力の低下といった神経症状を合併することがあります。
これらの症状は損傷の進行度によって異なります。初期の違和感を軽視せず、早期に専門的な診断を受けることが重要です。
原因
肘内側側副靭帯損傷は、主に肘への過度なストレスが繰り返されることによって発生します。多くの場合、構造的な問題や機能的な問題が複合的に絡み合って発症します。
- 慢性的なオーバーユース(使いすぎ): 投球やサーブなどの反復的なオーバーヘッド動作によって、肘関節に「外反ストレス」と呼ばれる強力な力が繰り返し加わります。この力が靭帯の線維を徐々に引き伸ばし、微細な損傷を蓄積させていきます。このため、野球やソフトボールの投手、テニス選手など、同じ動作を繰り返す競技者に特に多く見られます。
- 投球フォームの乱れと全身の運動連鎖の破綻: 肘の靭帯損傷は、腕や肘だけでなく、体全体の動きに原因があることがほとんどです。投球動作における運動連鎖とは、地面から脚、体幹、肩甲骨、腕へと力を効率よく伝える一連の動きを指します。股関節や体幹の柔軟性が不足していると、本来下半身で生み出すべきパワーを肘で代償することになり、過剰な負担を招きます。また、投球時に肘が肩より下がる「肘下がり」のフォームも、肘の内側に強いストレスを集中させ、損傷のリスクを高めます。
- 急性外傷: 慢性的なオーバーユースが主な原因ですが、一度の外力によっても損傷します。転倒して手をついた際の衝撃や、柔道、ラグビーなどのコンタクトスポーツでの負傷など、肘に強制的な外反ストレスが加わることで、靭帯の完全断裂に至ることがあります。
多くの場合、これらの要因が複合的に絡み合って発症します。
診断
肘内側側副靭帯損傷の診断は、患者様の症状と動作の確認から始まり、次に徒手検査と画像診断を組み合わせて行います。
- 問診と徒手検査: まず、いつ、どのような動作で痛みが生じたかなど、症状を詳しくお伺いします。次に、肘の圧痛(指で押したときの痛み)や、関節の不安定性を評価するための徒手検査(バルガスストレステスト)を行います。このテストでは、医師が肘に外反ストレスを加え、関節の内側がどの程度開くかを評価します。
- 画像診断(エコー検査): 徒手検査に加えて、損傷の正確な状態を把握するために画像診断が行われます。当院では、レントゲン検査に加えて、エコー(超音波)検査を重視しています。エコー検査は、レントゲンでは見えない靭帯や筋肉などの軟部組織をリアルタイムで観察できるという大きな利点があります。静止画ではなく、肘関節を動かしながら靭帯の状態を確認する「動的評価」が可能です。これにより、徒手検査だけでは判断が難しいわずかな不安定性や緩みを客観的に捉えることができます。また、患者様自身に映像を見せながら病態を説明できるため、治療への納得感を高める上でも非常に有用です。
治療
肘内側側副靭帯損傷の治療は、損傷の程度に応じて保存療法を第一選択とし、根本的な原因の改善を目指します。
保存療法
軽度から中等度の損傷の場合、まずは手術をしない保存療法を行います。
- 安静と活動制限: 痛みが強い場合は、原因となった運動を一時的に休止し、RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)を行います。必要に応じて、安静を保つための固定や、消炎鎮痛剤の使用が検討されます。
- リハビリテーション: 炎症が治まった後は、損傷した靭帯の治癒を促し、機能回復を目指すリハビリテーションを開始します。これには、肘の可動域訓練、筋力強化、そして肘に負担をかける根本的な原因である全身の機能改善(股関節や体幹の安定性、肩甲骨の可動性)が含まれます。正しい投球フォームを再学習し、再発しにくい身体を作り上げることが最も重要です。
体外衝撃波療法
標準的な保存療法と並行して、靭帯の治癒を促進するための先進的な治療法として体外衝撃波療法が活用されることがあります。これは、患部に集中して衝撃波を照射することで、組織の再生を促し、痛みを和らげる効果が期待できる非侵襲的な治療法です。1回あたり約10分程度で終了し、通常は2週に1回程度の頻度で数回行われます。身体への負担が少ないことも大きな特徴です。
PRP療法
PRP(多血小板血漿)療法も、先進的な保存療法の一つです。患者様自身の血液を採取し、遠心分離機にかけることで、成長因子を豊富に含む多血小板血漿を抽出します。これを損傷した患部に注射することで、組織の修復を促進し、治癒を早める効果が期待できます。治療は、採血からPRPの抽出、注射という流れで行われ、15~20分程度で終了します。この治療法も身体への負担が少ない選択肢です。
手術療法
手術は、靭帯の完全断裂など、保存療法では治癒が難しい重度の損傷の場合に選択されます。手術後のリハビリ期間は長期にわたりますが、適切な治療とリハビリを経れば、スポーツへの復帰は十分に可能です。
肘の違和感や痛みを放置すると、関節の不安定性が慢性化し、将来的に変形性関節症などの二次的な損傷へと発展するリスクが高まります。違和感を感じた際は、軽度なうちに適切な診断と治療を受けることが、将来の健康やスポーツ活動を守る上で最も重要なことなのです。